国際シンポジウム開催のご報告
2016年2月19日(金)に、千葉大学人社研棟2階マルチメディア会議室にて、未来型公正社会研究主催の国際シンポジウムを開催いたしました。
今回の国際シンポジウムは、未来型公正社会研究が今後“Chiba Studies on Global Fair Society”と題して開催する国際シンポジウムの第一回目にあたります。シンポジウムのテーマは、“International Symposium on Migration, Gender and Labour in East Asia”「東アジアにおける移民・ジェンダー・労働」であり、基調講演をはじめ2つのセッションの下で、海外からの招聘ゲスト4名を含む報告者ならびに討論者が登壇し、報告と質疑応答を含めすべて英語で行われました。
会場には、学内からは千葉大学徳久剛史学長、松元亮治理事、法政経学部酒井啓子学部長をはじめ、学外からの参加者を含め50名を上回る参加者が集い、充実した学術交流の場となりました。
徳久学長による式辞では、シンポジウムにご列席いただいた招聘者の先生方への歓迎の意が表されるとともに、昨年発足した未来型公正社会研究プロジェクトの研究活動への期待と、今回の国際シンポジウムを通じた各国の研究者間での学術交流の促進に対する期待が述べられました。
徳久学長による式辞に次いで、未来型公正社会研究プロジェクトの推進責任者である法政経学部水島治郎教授より開会の挨拶が行われ、「公正」をキーワードに、社会科学のさまざまな学問分野から学際的な研究に取り組む本プロジェクトの紹介とともに、今回の国際シンポジウムのテーマである、「東アジアにおける移民・ジェンダー・労働」というテーマのこんにちの国際社会における意義が述べられました。
【プログラム】
シンポジウムの進行は、以下のプログラムに沿って行われました。
【基調講演の概要】
まず、今回のシンポジウムの基調講演を務められたRaymond K H Chan氏の報告では、香港において、女性が子育てと高齢者の介護といういわゆるダブル・ケアに直面することが二重の負担となっている状況に関する言及がなされ、こうした状況において移民家事・介護労働者を雇用することが選択肢の一つとなっていることが指摘されました。
「東アジアにおける移民・ジェンダー・労働」をテーマとする今回のシンポジウムにまさにふさわしい基調講演であるとともに、超高齢社会の下で少子化問題と女性の活躍促進を課題とする日本の現状について考えるうえでも、多くの示唆を与える講演となりました。
【各報告の概要】
基調講演後のセッションは、セッション1“Global Perspectives”とセッション2“Regional Perspectives”という二つのセッションを設けました。
セッション1では、国立社会保障・人口問題研究所国際関係部部長、林玲子氏、ならびに九州大学大学院比較社会文化研究院准教授、小川玲子氏が報告を行い、ケアを中心とした部門における労働力移動の動向に関する考察や、東アジア地域全般におけるケア労働移民受け入れに関する分析が行われました。
林氏の報告では、日本における外国籍人口が占める割合の現状や、出入国管理政策の動向、海外との社会保障協定締結の状況について言及することで、海外と比較した際の日本の外国籍人口の相対的少なさと社会保障協定の締結状況が十分でないことが指摘されました。こんにちの日本の外国人労働者としてとりわけ需要が高まっているケア労働移民についても、EPAのあり方、外国人労働者の権利保障のあり方など、今後も環境の整備が求められることが言及されました。
小川氏の報告は、移民ケア労働者の受け入れには、ホスト国の出入国管理政策や外国人労働者の権利保障の仕組みを意味する“Migration Regime”と、ホスト国において、ケアを家族化/脱家族化しているか、専門性の高いサービスとして位置付けているか否か、といったケアの仕組みを意味する“Care Regime” の二つの分析軸によって検討することが必要であると指摘しています。
セッション2では、国立陽明大学衛生福利研究所准教授、Li-Fang Liang氏、千葉大学法政経学部教授、皆川宏之氏、千葉大学法政経学部特任研究員、日野原由未氏、千葉大学法政経学部教授、水島治郎氏が報告を行い、台湾、日本、ヨーロッパという特定の国や地域に着目した報告を行うことで、移民問題、少子高齢化をめぐるケアとジェンダーに関する議論について、東アジア地域内部での国家間比較、あるいはアジアとヨーロッパの比較という、それぞれの視座が提供されました。
Liang氏の報告では、1992年の導入以降急激に増え続ける台湾の移民ケア労働者の受け入れ政策の仕組みとその背景に関する言及が行われました。台湾では、ケア労働の担い手不足の処方箋として、住み込みの移民ケア労働者を受け入れ、家庭でのケアの維持が図られています。高齢化、女性の労働市場参入、核家族化など、日本と同様の社会状況にある台湾におけるこうした選択は、日本の現状を考えるうえで多くの示唆に富んでいます。
皆川氏の報告では、日本における正規/非正規労働の格差について、ジェンダーの視座も交えた分析が行われました。日本型雇用システムの下では,女性の就労はいわゆるM字型就労となり、非正規労働の中心を占めるパートタイム労働の多くが女性によって担われ、正規労働との間に明確な労働条件の格差が存在します。こうした正規/非正規の格差是正に対し、昨今の労働法制の整備が果たす役割についても指摘されました。
日野原・水島両氏による報告では、イギリス、オランダというヨーロッパの国における移民に光をあて、イギリスにおける技能移民の積極的な受け入れと、オランダにおける移民に対する規制の強化という、対照的な包摂と排除の現象が指摘されました。東アジアを主たる対象とした今回のシンポジウムに対して、ヨーロッパの事例を紹介することで、比較の視座を提供しました。
【質疑の概要】
両セッションの終了後には、討論者からのコメントと質疑をはじめ、会場からの質疑に報告者が答える時間も設けられました。セッション1では、両報告でとりあげられたEPAについて、EPAの下での看護師資格取得の難易度の高さから、人材の確保につながるのか、といった問などが挙げられ、徳久学長からも外国人看護師の受け入れについて英語でご質問いただき、報告者との間で活発な議論が行われました。セッション2では、台湾、日本、ヨーロッパという個別の地域や国に関して、各報告内容をより掘り下げた質疑が行われました。
【国際シンポジウムの関連行事】
今回の国際シンポジウムの開催に合わせて、本シンポジウムのオーガナイザーである大石亜希子教授を中心に、今回のテーマである「東アジアにおける移民・ジェンダー・労働」と関連する研究成果の国際発信に関する会議が開かれました。
この会議では、国内外ゲストの間で今後のさらなるグローバルな研究ネットワークの形成について議論が行われるとともに、数年後に、今回のシンポジウムのテーマをより発展させた国際シンポジウムを開催することについても検討されました。
シンポジウム終了後には、けやき会館のコルザにて懇親会を行い、シンポジウムの登壇者、未来型公正社会研究メンバーを中心に参加者が集いました。
【募金額のご報告】
東アジア地域をテーマとした今回のシンポジウムでは、海外招聘ゲストもお越しいただいた台湾で2月6日に発生した地震の被災者の方々へのお見舞いと一日も早い被災地の復興を祈念して「2016年台湾地震救済募金箱」を設置させていただきました。皆様からお寄せいただいた募金総額は7,000円となりました。多くの皆様からご支援・ご協力を賜りありがとうございます。皆様からお預かりした募金は、日本赤十字社を通じて2016年台湾地震救援金として寄付いたしました。
【今後の国際シンポジウム開催予定】
未来型公正社会研究では、 2016年11月に国際シンポジウム“Chiba Studies on Global Fair Society”の第2回目の開催を予定しています。詳細については、決まり次第本ブログでお知らせいたします。