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公正社会研究会

千葉大学リーディング研究育成プログラム 未来型公正社会研究

第二回 歴史動態班研究会について

研究会

第二回歴史動態班研究会が開催されました。

 

日時 2017年1月25日(水)13時~14時半

場所 人社研棟4階 共同研究室1

報告者 一橋大学大学院経済学研究科 講師 高柳友彦

報告テーマ 「近代日本における資源利用の相克-温泉資源を事例に-」

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 2017年1月25日に未来型公正社会研究会歴史動態班の第二回研究会を開催いたしました。今回は「近代日本における資源利用の相克-温泉資源を事例に-」というタイトルで、一橋大学大学院経済学研究科講師である高柳友彦氏が報告を行いました。

 高柳氏の報告は、近代日本の温泉資源、特に源泉利用の変遷を分析することで近代的土地所有権と源泉の利用慣行との間でどのようなずれが生じ、それに対し地域社会がどのように秩序形成を進めてきたのかを検討するものでした。まず資源利用をめぐる議論における「資源」とは、①林野や漁場といった再生可能資源と、②石炭や石油のような枯渇性資源に分類され、前者は地域住民による共同利用、後者は領主による直営あるいは商人の請負利用がなされてきた点を確認しました。明治の近代化以降は、枯渇性資源である石炭は国家の所有となり地域社会の秩序とは遮断された一方、再生可能資源である温泉は土地所有と利用の間での対立が生じるようになりました。温泉地の利用方法も近代以降は、観光地としての利用客の増加と共同湯中心の外湯から浴場内に源泉を引用する内湯への転換に伴い、源泉湧出量の確保が課題となり、源泉開発が課題となったことが指摘されました。温泉資源の特徴は、①有限で再生可能な資源であること、②利用者相互間の関係が強い点にあり、温泉地の源泉開発が進めば個々の利用が不安定になるため、一定の範囲内において開発・利用の調整をしなければならない種類の資源であります。しかし近代的土地所有制度では源泉利用を包括する国家法が存在しないため、地方行政機構による法整備と利用・管理主体による秩序作りがなされてきたと述べられました。

 温泉地に関する先行研究は観光地理学や法社会学が行ってきましたが、資源利用のあり様への視点や歴史的な流れの把握には限界があることが高柳氏より指摘されました。温泉地ごとに利用のあり方や行政の対応に違いがある中で、地位社会のどのような主体が源泉の利用・管理を秩序づけたのか、私的土地所有と資源利用の矛盾について分析するために、高柳氏の報告では熱海と常磐湯本を事例として取り上げました。まず熱海は、私的所有を前提とした源泉開発が進んでおり、源泉利用者による利用が調整されてきたこと、地元温泉主等の地域社会の利用者間における秩序形成・維持を県行政が規制を通じ支える仕組みがつくられてきたことが述べられました。そして熱海の場合は、複数の源泉を町が町営温泉事業とすることで安価で安定した源泉利用を実現したことが説明されました。

 次に温泉事業が他の資源開発と相克する事例として常磐湯本が検討されました。常磐湯本は近代化に伴い石炭採掘が盛んとなり、石炭鉱区を拡大していく中で温泉脈とぶつかるようになり、石炭採掘と温泉資源の利用との間で資源利用の相克が顕在化することとなりました。両者が互いに正当な資源利用行為をする中での対立となる中、県行政が鉱山会社と地域社会の間での調停が行うことで不十分な法制度へと対応を進めた様子が報告されました。

 高柳氏の報告で検討された二つの事例は、いずれも近代的土地所有権制度下における源泉利用の矛盾をどのように解消するかを検討したもので、権利と権利の衝突を誰がどう治めるかに関する国家法がない中で、行政機構による解決が図られてきた点に特徴があることが述べられました。最後に権利と権利が衝突する場合、どのような点で「平等」「公正」が問題となるのか、特に鉱害の場合には企業の社会的な役割が重要になってくるのではないかという指摘がなされました。

 高柳氏の報告終了後、開発と公正の関係は配分の問題であり、旧来の共同体における慣習秩序が崩れた後の共同体支配と権利の関係を問うものであること、地下資源の場合は所有権の対抗だけでなく利用権のバッティングについても検討する必要があるのではないかという点を始め、出席者と活発な議論が交わされました。