公正社会研究会

千葉大学リーディング研究育成プログラム 未来型公正社会研究

国際シンポジウム開催のご報告

 2016年11月19日(土)に、千葉大学人社研棟1階マルチメディア講義室にて、未来型公正社会研究主催の国際シンポジウムを開催いたしました。

 未来型公正社会研究では、“Chiba Studies on Global Fair Society”と題して毎年国際シンポジウムを開催しています。グローバル社会における「21世紀の公正」のあり方とはどのようなものなのかという本プログラムの課題に対し、第二回目にあたる今回の国際シンポジウムではASEAN(東南アジア諸国連合)を取り上げました。

 シンポジウムのテーマは、“Whither the ASEAN Integration: A Focus on Inclusiveness”「ASEAN統合と開発-メコン川ミャンマーから考える」であり、基調講演を含めた3つのセッションでは、海外からの招聘ゲスト3名を含む報告者ならびに討論者が登壇し、講演と報告は英語でなされ、日本語への同時通訳も行われました。

 会場には、学内からは千葉大学徳久剛史学長、松元亮治理事、法政経学部酒井啓子学部長をはじめ、学外からの参加者を含め70名近い参加者が集い、充実した学術交流の場となりました。

 なお、本シンポジウムは科学研究費助成事業新学術領域研究(研究領域提案型)「計画研究A02 政治経済的地域連合(課題番号16H06548 研究代表:石戸光)」「研究計画B03 文明と広域ネットワーク:生態圏から思想、経済、運動のグローバル化まで(課題番号16H06551 研究代表:五十嵐誠一)」と共催し、千葉市教育委員会、千葉県、(公財)ちば国際コンベンションビューローの後援を受けて開催しました。

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 徳久学長による式辞ではまず、今回の国際シンポジウムにご列席いただいた、海外からの3名の招聘者を含めた先生方への歓迎の意が表されました。本プロジェクトの下での第二回目の国際シンポジウムが、学際的・国際的な知的交流と活発な議論の場となることへの期待が述べられました。

 続いて酒井啓子・法政経学部長からは、未来型公正社会研究の法政経学部としての国際シンポジウム開催の背景と重要性が言及され、併せて同学部長が代表の科学研究費「グローバル関係学」も共催しており、活発な討議への期待の旨が述べられました。

 

【プログラム】

【学長あいさつ】 徳久剛史(千葉大学学長)
【法政経学部長あいさつ】 酒井啓子千葉大学政経学部長)
【オーガナイザーあいさつ】 石戸光(千葉大学政経学部教授)
【セッション1:基調講演 メコン川流域の開発の課題】 Watcharas Leelawath(ワットチャラス・リーラワス メコン・インスティテュート代表) "Toward Inclusive Growth of the Greater Mekong Sub-Region (GMS)"
【セッション2:ミャンマーの開発について】 ①Ben Belton(ベン・ベルトン ミャンマー経済社会開発センター)   Aung Hein(オー・へイン ミャンマー経済社会開発センター) "Aquaculture and Rural Development in Myanmar: Pathways to Inclusion and Exclusion"
②Kyaw Thiha(キョティハ 千葉大学大学院公衆衛生学博士課程)   Kyaw Kyaw Soe(チョウチョウソー ミャンマー民主化関連活動家)    濵田江里子(千葉大学政経学部特任研究員) "What can Japan do for Myanmar?"
法的視点からのコメント:杉本和士(千葉大学大学院専門法務研究科准教授)
討論者:Moe Min Oo(モーミンウー 在日ミャンマー政治難民「1号」、俳優、政治活動家
【セッション3:ASEANと国際レジーム】
①藤澤巌(千葉大学政経学部准教授) "The Use and Abuse of the 'ASEAN Way'"
②五十嵐誠一(千葉大学政経学部准教授) "Civil Society's Participation in Multi-Layered and Multi-Stakeholder Regions: Toward People-Centered Development
討論者:Watcharas Leelawath(ワットチャラス・リーラワス)
【質疑応答】
【閉会のあいさつ】 水島治郎(千葉大学政経学部教授・未来型公正社会研究プロジェクト推進責任者)

 

【趣旨説明】

 はじめにシンポジウムの企画取りまとめを行った石戸光氏(千葉大学政経学部教授)より、公正な社会のあり方の1つとして「インクルーシヴネス(inclusiveness、包括性、全員参加による社会構築)が社会的公正を具体的に実現していくために必要な考え方であることが説明されました。この概念は政治経済的・社会的な地域統合を進めるASEAN東南アジア諸国連合)においても重要視されています。

 ASEANにおいては、加盟する10カ国間には政治的・経済的・社会的な多様性が存在しており、これら諸国間および国内の市民社会との「関係性」が断絶せず平和的に構築されていなければ、現在ASEANで進行する地域統合は、(EUにおいて英国が離脱表明をしたように)瓦解する可能性を常に内包しています。このような問題意識の中で、今回のシンポジウムでは3つのセッションを行うことが述べられました。

 

【セッション1-基調講演の概要】

 今回のシンポジウムでは、メコン川流域6カ国が加盟する国際機関であるメコン・インスティテュートの代表、ワットチャラス・リーラワス氏より基調講演が行われました。格差なき社会発展を研究する同機関では、インクルーシヴネスを重視しており、農産物のバリューチェーン(原材料の生育から収穫、加工、流通という一連の活動のつながり)を同地域の様々な主体の参加を促していくべき点が提起されました。

 社会の様々な主体が積極的に参加しながら地域経済の発展を目指すという視点は、まさに本シンポジウムの基調講演にふさわしい内容であり、多くの示唆が得られた講演となりました。

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【セッション2-ミャンマーの開発についての概要】

 ミャンマー経済社会開発センターのベン・ベルトン氏とオーへイン氏からは、水産物の加工が小規模な生産団体にも参画可能な形でインクルーシヴネスを確保していくことの重要性が詳細な農村調査に基づいて報告されました。農村部に関する正確なデータが十分に存在しないため、まずは現状把握のための調査を自ら行っていることや水産加工業の方が農業に比べ雇用創出力が大きい点が指摘されました。

 キョティハ氏・チョウチョウソー氏・濵田江里子氏(千葉大学政経学部特任研究員)の報告では、日本はどのような形で軍政から民主化への移行が進むミャンマーと関わることができるのかという視点からの話がされました。現在、日本に住んでいるミャンマー出身者としてキョティハ氏・チョウチョウソー氏それぞれが考えるミャンマーへの支援のあり方をお話しくださいました。今後のミャンマーにとって最も重要なことは教育を通じた人材育成であること、日本には経済的な支援だけでなく今後の国づくりを担っていく人材を育てるための支援をお願いしたいという点をお二人とも強調されていました。

 本セッションに関連して、杉本和士氏(千葉大学大学院専門法務研究科准教授)より、ミャンマーの企業のための倒産法の整備事業にJICA関連プロジェクトとして実際に携わっていることが紹介されました。その後、モーミンウー氏が討論者として登壇され、政治難民として「インクルーシヴネス」とは正反対の人生を送ったお話しをしてくださいました。

 

【セッション3ーASEANと国際レジーム】

 藤澤巌氏(千葉大学政経学部准教授)の報告では、ASEAN Wayと呼ばれるコンセンサスを重視する政策決定方式についての可能性を交えた分析が行われました。 ASEAN Wayは参加国が互いに協力できれば地域内の問題解決に効果的であるので、そうした協力関係を促進するための国際的な司法整備を進めることも必要だろうという問題提起がなされました。

 五十嵐誠一氏(千葉大学政経学部准教授)の報告では、市民社会の意思を政府による政策と同様に加味した多元的なASEAN大の意思決定が必要である点が指摘されました。国家・企業中心の地域主義から、持続可能性と社会正義を重視する人々を中心とした地域主義への移行が望まれることが述べられました。

 2つの報告についてワットチャラス氏がコメントされ、ASEAN Wayはコンサンサスに至るまで時間がかかるが、ASEANならではの有効な意思決定方式である点が改めて強調されました。その後、質疑応答では医療分野での支援の具体的必要性などについてのやり取りがフロアの参加者と登壇者の間で活発に行われました。

 

【国際シンポジウム関連-研究者ミーティングの開催】

 今回の国際シンポジウムの開催に合わせて、本シンポジウムのオーガナイザーである石戸光教授を中心に、今回のテーマである「ASEANの統合と開発-メコン川ミャンマーから考える」に関連する研究交流と研究成果の国際発信に関する会議が開かれました。

 この会議では、国内外ゲストならびに未来型公正社会研究メンバーが各自の研究内容の紹介を行い、より専門的な見地からの質問や意見交換がなされました。

 今後のさらなるグローバルな研究ネットワークの形成について議論が行われ、今回のシンポジウムの成果物として英文書籍の出版、市民社会からの提案としてASEAN関連機関への提言についても検討されました。

 

【国際シンポジウム関連行事】

 シンポジウム終了後には懇親会を行い、シンポジウムの登壇者、未来型公正社会研究メンバーを中心に参加者が集いました。

 シンポジウム中とは異なるリラックスした雰囲気の中で議論の続きに花を咲かせる方や、海外ゲスト、日本からの参加者がそれぞれの国や文化について紹介し合う様子もみられ、和やかな交流の場を持つことができました。

 

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【次回シンポジウムのお知らせ】

 未来型公正社会研究では、2017年10月~11月に海外から著名なゲストをお招きして、第三回 “Chiba Studies on Global Fair Society”国際シンポジウムの開催を予定しております。詳細は決まり次第、改めてお知らせいたします。