公正社会研究会

千葉大学リーディング研究育成プログラム 未来型公正社会研究

第九回研究会について

第九回公正社会研究会が開催されました。

 

日時 2017年5月24日(水)

場所 人社研棟4階 共同研究室1

報告者 社会科学研究院 教授 大石亜希子氏

コメンテーター 社会科学研究院 教授 皆川宏之氏

報告テーマ 「ワーク・ライフ・バランスを考える-24時間7日間経済との関連から-」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 2017年5月24日、第九回公正社会研究会を開催いたしました。今回は「ワーク・ライフ・バランスを考える-24時間7日間経済との関連から-」というテーマで、法政策実証班所属の社会科学研究院教授である大石亜希子氏が報告を行い、同・皆川宏之氏がコメンテーターを務めました。

 大石氏の報告は、経済のグローバル化、IT化に伴って、日中以外のイレギュラーな時間帯に働く人々が増加する中での労働政策のあり方を検討するものでした。初めにWLB概念の再考と「ワーク」、「ライフ」、「バランス」の各用語が具体的に何を意味するのかの検討がなされました。WLBに類似する概念や用語は多数存在するものの、経済学、社会学産業心理学などの分野による違いが大きいことや、「ワーク」と対立する領域として「ライフ」や「ファミリー」が用いられてきたことが指摘されました。2000年代中盤よりWLBという用語が広まる中、「ワーク」が有償労働を指すことは共通理解となる一方、「ライフ」が何を意味するのかに関しては見解が分かれています。経済学的には「ライフ」は余暇を意味するものの、ファミリーという要素を勘案すると「ライフ」の中には無償労働を始めとする家庭内生産も含まれ、必ずしも休息や余暇を意味しないこと、ファミリーがない人にとってのWLBとは何を指すのかは十分に議論されていないことが指摘されました。「バランス」については、産業心理学ではワークとライフが時間的・質的に均等であることが重視されますが、経済学では時間的な等しさは問題とならず、主体的な選択がなされることと効用最大化が重視されてきました。「バランス」をとる主体は個人ベースですが、社会保障制度などの社会制度は世帯ベースで設計されているため両者の間でミスマッチが生じること、個人ベースのWLBにおける負の外部性への指摘もなされました。さらにWLBを巡る政策では「バランス」を考える際の時間軸が整理されておらず、日本の場合はライフサイクルをベースとしたWLB施策に偏っているが、労働者の立場からは1日単位でWLBを実現するための施策の方が重要だという問題提起がされました。

 次に、24時間・週7日間経済が子育て中の労働者の働き方にどのような影響を与えているのについて、近年の労働政策の動向と共に検討がなされました。大石氏の報告では、24時間・週7日間経済は、労働者の健康や安全を脅かすだけでなく、親がWLBを実現できないことにより子どもの健康や生活にも影響を及ぼし、そうした影響はひとり親世帯でより顕著であることが指摘されました。日中以外の時間帯に働く労働者は男女を問わず増えてこと、また、母子世帯の母親は二人親世帯の母親よりもイレギュラーな時間帯に働いている割合が高いことが図とともに説明されました。3月に罰則付き時間外労働の上限規制に関する政労使合意がなされましたが、その実効性には疑問が残ること、雇用関係によらない働き方の推奨は「労働者」の定義を曖昧化すること、現在の日本では休息権を確立することが重要ではないかという論点が大石氏より提示されました。

 大石氏の報告を受け、コメンテーターの皆川氏からは労働法的な観点からWLBの考察がなされました。皆川氏からは、まず労働法におけるWLBとは女性の社会進出の遅れや少子化問題、男性の長時間労働の抑制といった課題への対応を束ねる概念であることが示されました。労働法では元来「ワーク」と「ファミリー」を重視し、「ライフ」の観点は弱かったが、2007年に成立した労働契約法では、労働契約が仕事と生活にも配慮して締結され、変更されるべきとする規定が盛り込まれたことが述べられました。次に労働時間規制とWLBの関係に目を向けると、労働基準法上の「労働者」では時間的な拘束性の有無が重視され、労働からの解放の保障が中心となっていること、使用者の指揮監督下で拘束される時間が長すぎないようにすることが労働法上の重要な課題であることが挙げられました。最後に大石氏の報告でも論点に挙がった罰則付き時間外労働の上限規制については、過労死の認定基準以下であったとしても心身を壊すケースは多々あること、労働時間の総量規制だけでは不十分であり勤務時間のインターバル制度や大石氏も主張した休息権の導入の必要性が主張されました。

 大石氏の報告と皆川氏のコメント後は、一定の労働時間を超えると労働生産性と効率性が下がることを論証できればインターバル制度や休息権の導入を推進できるのではないか、サービス経済への移行自体を止めることが困難な状況でフレックス化に伴う際限のない労働はいかにして防ぐことができるのか、男性の無償労働への参入、つまり「ライフ」活動への参加が増えない限りは女性の「ワーク」を巡る問題も解決しないのではないかといった多数の質問が挙がり、参加者との活発な議論が繰り広げられました。

第八回研究会について

第八回公正社会研究会が開催されました。

 

日時 2017年3月15日(水) 14時~15時

場所 人社研棟4階 共同研究室1

報告者 人文社会研究科 博士後期課程 七星純子

報告テーマ 「人と人をつなぐ-中間支援の事例を通して-」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 2017年3月15日に、未来型公正社会研究第八回研究会を開催いたしました。今回は「人と人をつなぐ-中間支援の事例を通して-」というテーマで、未来型公正社会研究RAで人文社会科学研究科博士後期課程所属の七星純子氏が報告を行いました。

 七星氏の報告は、家族形態の変化が進み社会的な孤立が深まる中で、専門家による支援だけでなく、地域社会の中におけるケアの仕組みをどのように構築していくのかを模索するものでした。地域社会を主体としたケアの仕組みづくりを進める上では、住民の活動参加が不可欠となりますが、実際には活動の担い手は不足しがちです。こうした状況の中で、多様な地域活動への参加促進を図っていくには、さまざまな世代が活動に参加しやくなるように人材や団体同士をつないでいく中間支援が重要になってきます。そこで七星氏の報告では、中間支援のあり方に着目して、地域をベースとしたケアに関わる対人サービスにおいて世代間のつながりがつくりづらい実状を確認した上で、中間支援組織が関わることで世代間のつながりを創出する試みについて検討がなされました。

 まず、世代間のつながりの現状についての検討を行う上で千葉市NPOにおける学生の参加状況に関する調査データの分析が示されました。調査データからは、医療、保健、福祉、社会教育、子どもに関連する活動に取り組む市内のNPOへの学生の参加状況は2割強であり、学生スタッフの募集を行っている団体は4割近くあり、学生の参加を期待する声が大きいことが明らかになりました。学生スタッフの募集方法としては、学校のボランティア・センターや大学(短大)の特定の研究室を通じてというルートが多いことが挙げられました。そして活動対象別の学生の参加状況について考察をすると、主な活動対象者が「高齢者」となる団体における学生の参加率は、「障がい者・障がい児」、「子ども」、「市民」といった対象と比較し低く、学生と高齢者の接点の少なさ、関係の薄さが指摘されました。その上で学生と高齢者の接点を増やすには、教育機関が接点づくりの仲介者となることが重要ではないかという提案がなされました。

 次に食を通じて異世代をつなぐ取り組みについての事例として、食事サービスを中心としたボランティアベースの活動を行う、老人給食協力会ふきのとうの活動が紹介されました。発足当初は子ども会活動の一環として食と子どもをつなぐ活動が主であった団体が、活動を進める中で地域の中で孤立している高齢者の存在に気づき、食事を通じた高齢者の生活支援へと活動領域を拡大していった様子が述べられました。七星氏の報告からは、食には世代や性別を超えて人々をつなげる力があること、生活支援という継続性や耐久性が必要とされる活動経験の蓄積が重要となってくることが挙げられました。さらに近年は活動の担い手の高齢化、人材不足が進んでいるため、こども食堂の活動者と連携を進めることで子どもの安全な居場所づくりと食事支援の活動を地域社会の中に定着させることで多世代型の共生の居場所づくりを模索していることが報告されました。

 七星氏の報告後は、報告の射程として中間支援組織の重要性と多世代共生の推進という2つの論点を同時に扱うことへの難しさ、中間支援組織同士のネットワークづくりのあり方、学生と高齢者の間には世代格差だけでなく階層格差も含まれているために余計に世代間コミュニケーションがとりづらいのではないかという指摘が出席者から挙がり、参加者間で活発な議論がなされました。

第七回研究会について

第七回公正社会研究会が開催されました。

 

日時 2017年2月10日(金)

   13時~14時半

場所 人社研棟4階 共同研究室1

報告者 人文社会科学研究科 博士後期課程 府中明子

報告テーマ 「首都圏にくらす未婚女性にとって恋愛結婚の条件とは何か-インタ  ビュー分析から-」

 

~~~~~~~~~~~~

 2017年2月10日に、未来型公正社会研究第七回研究会を開催いたしました。今回は「首都圏に暮らす未婚女性にとって恋愛結婚の条件とは何か-インタビュー分析から-」というテーマで、未来型公正社会研究RAで人文社会科学研究科博士後期課程所属の府中明子氏が報告を行いました。

 府中氏の報告は、結婚相手となりうる相手とすでに巡りあっている人々を対象に、結婚したいと語る人々のうち、恋人がいるあるいはいたにも関わらず、結婚しなかった女性の語りを分析し、そのプロセスを追うものでした。同様のテーマに関する先行研究では、結婚に至る条件として経済的な側面と恋愛感情に着目した研究が進んでおり、近年は前述の2つの条件に加えて、女性は結婚の際に男性の人格や意識を重視しているという指摘がなされてきました。今回の府中氏の報告では、出会いの場、交際、結婚への意欲もあるが、結婚を断念した未婚女性へのインタビューを行い、その中での彼女たちの語りを分析することでその要因を明らかにすることを試みました。インタビュー調査は首都圏に住まい・職場・学校がある25~34歳の未婚女性を対象として、事前に質問項目を設定しつつも、それぞれの質問に対してどの程度の長さで回答するかについては固定されていない半構造化インタビューの手法を採用して行われました。

 府中氏によるとインタビュー調査からは、①交際相手への恋愛感情の有無が重視されていること、②結婚に関わる経済的な側面への言及、③子どもに対する交際相手(男性)の態度や意識の3点を首都圏に暮らす未婚女性は、結婚や将来展望を描く上で重要視している様子が明らかになりました。恋愛関係の末に結婚をしたいという語りが対象者全員に共通してみられ、結婚相手には経済的安定を求めるがそれは子どものいる家族を持つためには安定した収入が必要だという認識に基づき、結婚後は子育て世帯を想定していることが描き出されました。そして結婚を躊躇した要因として、将来的な夫となる交際相手の家事や育児に関する気持ち、特に子どもに対する態度や意識への言及がなされていること、子どもが好き、子どもが欲しいという男性の態度や意識が恋愛における一つの魅力として語られているとの指摘がなされました。

 インタビュー調査の語りの分析結果として、府中氏は夫となる男性の子どもに対する感情が恋愛感情、経済的要因に並ぶ、第3の結婚の「条件」ではないかという結論を導きだしました。恋愛結婚を志向し、それが実現できる可能性が高く、経済的困難がみられない首都圏在住の女性の間では、交際相手の男性が子どもに対しポジティブな感情を示さないことで結婚が棄却ないし恋愛感情がなくなる事例が観察されることが知見として得られたと述べられました。そしてインタビューからは子どもに対する男性の意識の側面への言及は多くなされているものの、実際の家事・育児労働への従事については女性側からの言及が少ないことも考察結果として挙げられました。

 府中氏の報告後、報告で挙げた結婚の3つの条件(①恋愛感情、②経済的要因、③子どもに対する感情)を既婚者へのインタビューによって反証することができるか、男性が交際相手の女性に対し子どもが好きだというのはそれ自体が結婚の意思表示ではないか、家族社会学における結婚に関する先行研究は統計調査が中心であるのに対し、出会い・交際・結婚というプロセスを追跡する府中氏の研究の意義について、参加者から活発な質疑と議論が行われました。

 次回、第八回未来型公正社会研究会は、未来型公正社会研究RAで人文社会科学研究科博士後期課程所属の七星純子氏を報告者として、2017年3月15日(水)14時より人社研棟4階共同研究室1にて実施予定です。

 

第二回 歴史動態班研究会について

第二回歴史動態班研究会が開催されました。

 

日時 2017年1月25日(水)13時~14時半

場所 人社研棟4階 共同研究室1

報告者 一橋大学大学院経済学研究科 講師 高柳友彦

報告テーマ 「近代日本における資源利用の相克-温泉資源を事例に-」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

 2017年1月25日に未来型公正社会研究会歴史動態班の第二回研究会を開催いたしました。今回は「近代日本における資源利用の相克-温泉資源を事例に-」というタイトルで、一橋大学大学院経済学研究科講師である高柳友彦氏が報告を行いました。

 高柳氏の報告は、近代日本の温泉資源、特に源泉利用の変遷を分析することで近代的土地所有権と源泉の利用慣行との間でどのようなずれが生じ、それに対し地域社会がどのように秩序形成を進めてきたのかを検討するものでした。まず資源利用をめぐる議論における「資源」とは、①林野や漁場といった再生可能資源と、②石炭や石油のような枯渇性資源に分類され、前者は地域住民による共同利用、後者は領主による直営あるいは商人の請負利用がなされてきた点を確認しました。明治の近代化以降は、枯渇性資源である石炭は国家の所有となり地域社会の秩序とは遮断された一方、再生可能資源である温泉は土地所有と利用の間での対立が生じるようになりました。温泉地の利用方法も近代以降は、観光地としての利用客の増加と共同湯中心の外湯から浴場内に源泉を引用する内湯への転換に伴い、源泉湧出量の確保が課題となり、源泉開発が課題となったことが指摘されました。温泉資源の特徴は、①有限で再生可能な資源であること、②利用者相互間の関係が強い点にあり、温泉地の源泉開発が進めば個々の利用が不安定になるため、一定の範囲内において開発・利用の調整をしなければならない種類の資源であります。しかし近代的土地所有制度では源泉利用を包括する国家法が存在しないため、地方行政機構による法整備と利用・管理主体による秩序作りがなされてきたと述べられました。

 温泉地に関する先行研究は観光地理学や法社会学が行ってきましたが、資源利用のあり様への視点や歴史的な流れの把握には限界があることが高柳氏より指摘されました。温泉地ごとに利用のあり方や行政の対応に違いがある中で、地位社会のどのような主体が源泉の利用・管理を秩序づけたのか、私的土地所有と資源利用の矛盾について分析するために、高柳氏の報告では熱海と常磐湯本を事例として取り上げました。まず熱海は、私的所有を前提とした源泉開発が進んでおり、源泉利用者による利用が調整されてきたこと、地元温泉主等の地域社会の利用者間における秩序形成・維持を県行政が規制を通じ支える仕組みがつくられてきたことが述べられました。そして熱海の場合は、複数の源泉を町が町営温泉事業とすることで安価で安定した源泉利用を実現したことが説明されました。

 次に温泉事業が他の資源開発と相克する事例として常磐湯本が検討されました。常磐湯本は近代化に伴い石炭採掘が盛んとなり、石炭鉱区を拡大していく中で温泉脈とぶつかるようになり、石炭採掘と温泉資源の利用との間で資源利用の相克が顕在化することとなりました。両者が互いに正当な資源利用行為をする中での対立となる中、県行政が鉱山会社と地域社会の間での調停が行うことで不十分な法制度へと対応を進めた様子が報告されました。

 高柳氏の報告で検討された二つの事例は、いずれも近代的土地所有権制度下における源泉利用の矛盾をどのように解消するかを検討したもので、権利と権利の衝突を誰がどう治めるかに関する国家法がない中で、行政機構による解決が図られてきた点に特徴があることが述べられました。最後に権利と権利が衝突する場合、どのような点で「平等」「公正」が問題となるのか、特に鉱害の場合には企業の社会的な役割が重要になってくるのではないかという指摘がなされました。

 高柳氏の報告終了後、開発と公正の関係は配分の問題であり、旧来の共同体における慣習秩序が崩れた後の共同体支配と権利の関係を問うものであること、地下資源の場合は所有権の対抗だけでなく利用権のバッティングについても検討する必要があるのではないかという点を始め、出席者と活発な議論が交わされました。

 

国際シンポジウム開催のご報告

 2016年11月19日(土)に、千葉大学人社研棟1階マルチメディア講義室にて、未来型公正社会研究主催の国際シンポジウムを開催いたしました。

 未来型公正社会研究では、“Chiba Studies on Global Fair Society”と題して毎年国際シンポジウムを開催しています。グローバル社会における「21世紀の公正」のあり方とはどのようなものなのかという本プログラムの課題に対し、第二回目にあたる今回の国際シンポジウムではASEAN(東南アジア諸国連合)を取り上げました。

 シンポジウムのテーマは、“Whither the ASEAN Integration: A Focus on Inclusiveness”「ASEAN統合と開発-メコン川ミャンマーから考える」であり、基調講演を含めた3つのセッションでは、海外からの招聘ゲスト3名を含む報告者ならびに討論者が登壇し、講演と報告は英語でなされ、日本語への同時通訳も行われました。

 会場には、学内からは千葉大学徳久剛史学長、松元亮治理事、法政経学部酒井啓子学部長をはじめ、学外からの参加者を含め70名近い参加者が集い、充実した学術交流の場となりました。

 なお、本シンポジウムは科学研究費助成事業新学術領域研究(研究領域提案型)「計画研究A02 政治経済的地域連合(課題番号16H06548 研究代表:石戸光)」「研究計画B03 文明と広域ネットワーク:生態圏から思想、経済、運動のグローバル化まで(課題番号16H06551 研究代表:五十嵐誠一)」と共催し、千葉市教育委員会、千葉県、(公財)ちば国際コンベンションビューローの後援を受けて開催しました。

f:id:kousei-shakai:20161221134345j:plain

 徳久学長による式辞ではまず、今回の国際シンポジウムにご列席いただいた、海外からの3名の招聘者を含めた先生方への歓迎の意が表されました。本プロジェクトの下での第二回目の国際シンポジウムが、学際的・国際的な知的交流と活発な議論の場となることへの期待が述べられました。

 続いて酒井啓子・法政経学部長からは、未来型公正社会研究の法政経学部としての国際シンポジウム開催の背景と重要性が言及され、併せて同学部長が代表の科学研究費「グローバル関係学」も共催しており、活発な討議への期待の旨が述べられました。

 

【プログラム】

【学長あいさつ】 徳久剛史(千葉大学学長)
【法政経学部長あいさつ】 酒井啓子千葉大学政経学部長)
【オーガナイザーあいさつ】 石戸光(千葉大学政経学部教授)
【セッション1:基調講演 メコン川流域の開発の課題】 Watcharas Leelawath(ワットチャラス・リーラワス メコン・インスティテュート代表) "Toward Inclusive Growth of the Greater Mekong Sub-Region (GMS)"
【セッション2:ミャンマーの開発について】 ①Ben Belton(ベン・ベルトン ミャンマー経済社会開発センター)   Aung Hein(オー・へイン ミャンマー経済社会開発センター) "Aquaculture and Rural Development in Myanmar: Pathways to Inclusion and Exclusion"
②Kyaw Thiha(キョティハ 千葉大学大学院公衆衛生学博士課程)   Kyaw Kyaw Soe(チョウチョウソー ミャンマー民主化関連活動家)    濵田江里子(千葉大学政経学部特任研究員) "What can Japan do for Myanmar?"
法的視点からのコメント:杉本和士(千葉大学大学院専門法務研究科准教授)
討論者:Moe Min Oo(モーミンウー 在日ミャンマー政治難民「1号」、俳優、政治活動家
【セッション3:ASEANと国際レジーム】
①藤澤巌(千葉大学政経学部准教授) "The Use and Abuse of the 'ASEAN Way'"
②五十嵐誠一(千葉大学政経学部准教授) "Civil Society's Participation in Multi-Layered and Multi-Stakeholder Regions: Toward People-Centered Development
討論者:Watcharas Leelawath(ワットチャラス・リーラワス)
【質疑応答】
【閉会のあいさつ】 水島治郎(千葉大学政経学部教授・未来型公正社会研究プロジェクト推進責任者)

 

【趣旨説明】

 はじめにシンポジウムの企画取りまとめを行った石戸光氏(千葉大学政経学部教授)より、公正な社会のあり方の1つとして「インクルーシヴネス(inclusiveness、包括性、全員参加による社会構築)が社会的公正を具体的に実現していくために必要な考え方であることが説明されました。この概念は政治経済的・社会的な地域統合を進めるASEAN東南アジア諸国連合)においても重要視されています。

 ASEANにおいては、加盟する10カ国間には政治的・経済的・社会的な多様性が存在しており、これら諸国間および国内の市民社会との「関係性」が断絶せず平和的に構築されていなければ、現在ASEANで進行する地域統合は、(EUにおいて英国が離脱表明をしたように)瓦解する可能性を常に内包しています。このような問題意識の中で、今回のシンポジウムでは3つのセッションを行うことが述べられました。

 

【セッション1-基調講演の概要】

 今回のシンポジウムでは、メコン川流域6カ国が加盟する国際機関であるメコン・インスティテュートの代表、ワットチャラス・リーラワス氏より基調講演が行われました。格差なき社会発展を研究する同機関では、インクルーシヴネスを重視しており、農産物のバリューチェーン(原材料の生育から収穫、加工、流通という一連の活動のつながり)を同地域の様々な主体の参加を促していくべき点が提起されました。

 社会の様々な主体が積極的に参加しながら地域経済の発展を目指すという視点は、まさに本シンポジウムの基調講演にふさわしい内容であり、多くの示唆が得られた講演となりました。

f:id:kousei-shakai:20161221142108j:plain

 

【セッション2-ミャンマーの開発についての概要】

 ミャンマー経済社会開発センターのベン・ベルトン氏とオーへイン氏からは、水産物の加工が小規模な生産団体にも参画可能な形でインクルーシヴネスを確保していくことの重要性が詳細な農村調査に基づいて報告されました。農村部に関する正確なデータが十分に存在しないため、まずは現状把握のための調査を自ら行っていることや水産加工業の方が農業に比べ雇用創出力が大きい点が指摘されました。

 キョティハ氏・チョウチョウソー氏・濵田江里子氏(千葉大学政経学部特任研究員)の報告では、日本はどのような形で軍政から民主化への移行が進むミャンマーと関わることができるのかという視点からの話がされました。現在、日本に住んでいるミャンマー出身者としてキョティハ氏・チョウチョウソー氏それぞれが考えるミャンマーへの支援のあり方をお話しくださいました。今後のミャンマーにとって最も重要なことは教育を通じた人材育成であること、日本には経済的な支援だけでなく今後の国づくりを担っていく人材を育てるための支援をお願いしたいという点をお二人とも強調されていました。

 本セッションに関連して、杉本和士氏(千葉大学大学院専門法務研究科准教授)より、ミャンマーの企業のための倒産法の整備事業にJICA関連プロジェクトとして実際に携わっていることが紹介されました。その後、モーミンウー氏が討論者として登壇され、政治難民として「インクルーシヴネス」とは正反対の人生を送ったお話しをしてくださいました。

 

【セッション3ーASEANと国際レジーム】

 藤澤巌氏(千葉大学政経学部准教授)の報告では、ASEAN Wayと呼ばれるコンセンサスを重視する政策決定方式についての可能性を交えた分析が行われました。 ASEAN Wayは参加国が互いに協力できれば地域内の問題解決に効果的であるので、そうした協力関係を促進するための国際的な司法整備を進めることも必要だろうという問題提起がなされました。

 五十嵐誠一氏(千葉大学政経学部准教授)の報告では、市民社会の意思を政府による政策と同様に加味した多元的なASEAN大の意思決定が必要である点が指摘されました。国家・企業中心の地域主義から、持続可能性と社会正義を重視する人々を中心とした地域主義への移行が望まれることが述べられました。

 2つの報告についてワットチャラス氏がコメントされ、ASEAN Wayはコンサンサスに至るまで時間がかかるが、ASEANならではの有効な意思決定方式である点が改めて強調されました。その後、質疑応答では医療分野での支援の具体的必要性などについてのやり取りがフロアの参加者と登壇者の間で活発に行われました。

 

【国際シンポジウム関連-研究者ミーティングの開催】

 今回の国際シンポジウムの開催に合わせて、本シンポジウムのオーガナイザーである石戸光教授を中心に、今回のテーマである「ASEANの統合と開発-メコン川ミャンマーから考える」に関連する研究交流と研究成果の国際発信に関する会議が開かれました。

 この会議では、国内外ゲストならびに未来型公正社会研究メンバーが各自の研究内容の紹介を行い、より専門的な見地からの質問や意見交換がなされました。

 今後のさらなるグローバルな研究ネットワークの形成について議論が行われ、今回のシンポジウムの成果物として英文書籍の出版、市民社会からの提案としてASEAN関連機関への提言についても検討されました。

 

【国際シンポジウム関連行事】

 シンポジウム終了後には懇親会を行い、シンポジウムの登壇者、未来型公正社会研究メンバーを中心に参加者が集いました。

 シンポジウム中とは異なるリラックスした雰囲気の中で議論の続きに花を咲かせる方や、海外ゲスト、日本からの参加者がそれぞれの国や文化について紹介し合う様子もみられ、和やかな交流の場を持つことができました。

 

f:id:kousei-shakai:20161221134346j:plain

【次回シンポジウムのお知らせ】

 未来型公正社会研究では、2017年10月~11月に海外から著名なゲストをお招きして、第三回 “Chiba Studies on Global Fair Society”国際シンポジウムの開催を予定しております。詳細は決まり次第、改めてお知らせいたします。

 

 

 

 

 

国際シンポジウムのご案内

 未来型公正社会研究では、“Chiba Studies on Global Fair Society”と題して国際シンポジウムを開催しています。11月19日(土)に開催する国際シンポジウム「ASEANの統合と開発―メコン川ミャンマーから考える」の詳細が決定いたしましたので、お知らせいたします。

 

千葉大学リーディング研究育成プログラム「未来型公正社会研究」主催 国際シンポジウム「ASEANの統合と開発~メコン川ミャンマーから考える」

- Whither the ASEAN Integration: the Case for Inclusiveness”- +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

日 時: 2016年11月19日(土)午後13時~16時10分(受付開始12:30)

場 所: 千葉大学人文社会科学研究科系総合研究棟1階      

     マルチメディア講義室(西千葉キャンパス)

最寄駅: JR総武線西千葉駅」徒歩8分、京成千葉線みどり台駅」徒歩5分

 

※参加無料・申し込み不要・先着順(定員120名)

※日本語への同時通訳あり

アウンサンスーチー氏らの新政権の政策決定に影響力を持つミャンマーの研究所や、ASEAN(東南アジア諸国連合)で格差なき社会発展を研究する国際組織などから研究者をお招きし、ASEANを主題に、公正なグローバル社会の「インクルーシブネス」(全員参加型)のあり方についてともに考え、さらには、最近ニュースでも話題になる「国家の主権」とはどうあるべきなのかについても考えていきます。シンポジウムの成果は、市民社会からの提案としてASEAN関連機関にも直接提言する予定です。

 

当日は英語で講演や発表がなされ、日本語への同時通訳があります。

国際理解講座としても最適の内容です。会場内では、ASEAN諸国を中心とした国々から輸入されたフェアトレード商品も展示・販売を行う予定です。

皆様どうぞお越しください!

<海外招聘者>

  1. Dr. WatcharasLeelawath(Mekong Institute代表)
  2. Dr.Ben Belton (CESDミャンマー経済社会開発センター)
  3. Mr. Aung Hein (CESDミャンマー経済社会開発センター)

 

<国内参加者>

  1. キョティハ氏(千葉大学医学薬学府留学生)
  2. チヨウチヨウソー氏(活動家、「ルビー」経営)
  3. モー・ミン・ウー氏(在日ミャンマー人の政治難民「第1号」、俳優、政治活動家
  4. 五十嵐誠一(千葉大学政経学部准教授)国際関係論・アジア政治
  5. 藤澤 巌(千葉大学政経学部准教授)国際法
  6. 濱田江里子(千葉大学政経学部特任研究員)政治学・比較福祉国家
  7. 石戸 光(千葉大学政経学部教授)国際経済論

 

<プログラム>

13:00~13:10  Opening Remark (by President Takeshi Tokuhisa)

13:10~13:20  Explanation of Issues and Introduction of Mr.Aung Hein, Dr.Ben Belton, Dr.Watcharas Leelawath and Mr. Moe Min Oo (by Dr.Hikari Ishido)

 

<Session 1> Mekong Institute

13:20~13:50  Keynote lecture Dr.Watcharas Leelawath

 

<Session 2> Myanmar

13:50~14:20  Presentation by Mr.Aung Hein, Dr.Ben Belton

14:20~14:50 What can Japan do for Myanmar? (Mr.Kyaw Thiha, Mr.Kyaw Kyaw Soe and Dr.Eriko Hamada)

14:50~15:00  Mr.Moe Min Oo

 

15:00~15:15  Break (please view the photos and products displayed)

 

<Session 3> ASEAN and the International Regime

15:15~15:30  Presentation by Dr.Seiichi Igarashi

15:30~15:45  Presentation by Dr.Iwao Fujisawa

15:45~15:55  Discussant:Dr.Watcharas Leelawath

 

15:55~16:05  Questions and Answers

 

16:05~16:10  Wrap-up (Dr.Hikari Ishido) and Closing Remark (Prof.Keiko Sakai)

 

<問い合わせ先>

千葉大学政経学部 公正社会研究会 事務担当 登尾(のぼりお)

電話 : 043-290-2375

FAX : 043-290-2386

E-mail :leading-21*chiba-u.jp(*を@に変換してください)

f:id:kousei-shakai:20161005122945j:plain

f:id:kousei-shakai:20161005123044j:plain

 

第一回 歴史動態班研究会について

第一回歴史動態班研究会が開催されました。

 

日時 2016年9月16日(金)

   16時~18時

場所 人社研棟4階 共同研究室1

報告者 法政経学部 准教授 佐藤健太郎

報告テーマ 「公正と平等を歴史的立場から論ずるために-今後の展望と課題-」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 2016年9月16日に未来型公正社会研究会歴史動態班の第一回研究会を開催いたしました。今回は「公正と平等を歴史的立場から論ずるために-今後の展望と課題-」というテーマで、法政経学部准教授である佐藤健太郎氏が報告を行いました。報告は二部構成からなり、第一部は未来型公正社会研究プロジェクト全体における歴史動態班の位置づけの確認、第二部は「明治期における『平等』理念の受容と政治」というタイトルでの研究報告となりました。

 第一部では本プロジェクトが考える「公正」とは配分の平等にとどまらず、異質性や多様性を重視した概念であること、20世紀の福祉国家体制の下で実現してきた平等と社会的安定が再編を迫られている現状を確認しました。特に日本の文脈では木部尚志『平等の政治理論-“品位ある平等”にむけて』が論じたように、「自由なき平等」、「画一的な平等主義」という批判がなされ、近年は深い考察もないまま「結果の平等」から「機会の平等」へと議論が進んでいることが指摘されました。ここで浮かぶ疑問として、個人間の平等なのか、集団間の平等なのか、日本社会はそもそも平等なのかが挙げられました。こうした疑問を解くためにはマクロな構造と合理的な個人の行為を多元的な社会関係が織りなす関係に着目し、経験に基づいた理論を目指しながら平等を多面性や複雑性を捉えなおす作業が必要でないかという木部説が紹介されました。歴史動態班としては、歴史という共通性を用い個人および集団に着目し、各々の問題関心に基づいた歴史的な研究を行えば、おのずと平等の複雑性が浮かび上がるはずであり、平等と公正の関係がもつ問題性やあるべく両者の関係に向けた示唆が得られるのではと考えていることが述べられました。

 次いで参加メンバーの論考を検討し、メンバー同士の問題関心がどのように関連し、そこから平等と公正をめぐる問題の所在を多面的に明らかにしていく作業を行いました。まず冨江直子『救貧のなかの日本近代-生存の義務』では救貧事業を通じて、皆を等しく生きさせるのは公正なのか、生きることは権利なのか義務なのかという問題提起がなされました。理想の生の実現と経済的貧しさの関係への着目は、藤野裕子『都市と平等の民衆史 東京-1905年-1923年』も共有する視点であります。反政府的な市民活動の側面を有する1900年代の都市暴動は、まっとうな道徳と男らしさという対立構造を内包し、政治運動の洗練化により壮士的振る舞いが不可能となった者たちの鬱屈した感情が朝鮮人虐殺の要因となったことが指摘されました。平等や公正は民衆の専売特許ではなく、官僚人事をめぐる官僚集団間の争いを取り上げた論考として若月剛史『戦前日本の政党内閣と官僚制』があり、さまざまな集団内部あるいは集団間における平等理念の争いを扱ったものとしては佐藤健太郎『「平等」理念の政治-大正・昭和戦前期の税制改正と地域主義』が紹介されました。戦前における義務は納税と兵役であるが、明治期の元老院議官の徴兵制をめぐる論理を分析した尾原宏之『軍事と公論-明治元老院の政治思想』が取り上げられました。関係論的な平等観をめぐっては地域に目を向けることも重要であり、中西啓太「所得調査委員と日露戦後の地域社会-埼玉県の事例から」(『史学雑誌』)と池田真歩「明治中期東京市政の重層性:星亨と区議-有力公民層の対抗関係を通じて」(『史学雑誌』)では、地域の実態を明らかにする作業を通じて望ましい平等と公正を考え方への一考察が提案されました。

 第二部では政治的理念としての平等がどのようにイメージされてきたのかを明治期に焦点を当てた整理がなされました。特に「平等」という概念に込められた固有の価値と意味があるとするならば、それは一体何なのかを明らかにすることが試みられました。幕末から明治にかけて西洋思想の中核的理念として日本で一番重要だったのは自由であり、平等は自由とのセットで位置づけられる概念でした。次いで公正と平等について考察すると、両者はいずれも国内政治を論じる際には用いられないが、外交において理念的な言葉として明治政府が用いている様子が明らかとなりました。

 具体的な事例として中江兆民主筆を務めた『自由平等経論』を分析すると、一般的な代議士レベルでは自由は論争の余地がない良い価値として確立されているが、平等については個人により理解度に差があり違和感が提示されているのが特徴だという点が指摘されました。フランス革命における自由・平等・博愛を出発点とした平等を考察した議論においても、平等とは貧富貴賤をなくすことを意味するのではなく、人をあまねく自由にすることとして捉えられている様子が明らかになりました。経済的平等に言及した論考もあるものの立法的手段による貧富の解消には消極的な議論に終始していました。

 佐藤氏によれば、中江兆民が自由とセットとしての平等論に終始し、平等を単独で強調しなかった理由としてフランス革命を礼賛する立場、負の側面に着目する立場のいずれも自由の原理を踏まえた平等という路線を踏襲していたことが挙げられました。これに加えて急進的な平等は流血事態を伴いかねないこと、民党大合同路線の展開を受け、明治期の日本では平等を抑制し自由を強調し、あくまでも自由とセットとしての平等に関する議論が展開したことが論じられました。

 佐藤氏の報告終了後、平等を考える上での共同体とのあり方や人格に対する視点、民族やジェンダー差別が根強く残るグローバル社会における「公正」を考えながら歴史研究をおこなうのであれば植民地主義帝国主義は避けられないのではないか、被支配者・地域が支配者を覆すには必然的に近代化・西洋化を伴わざるを得ないという意識が必要ではないかという問題提起がなされました。また議論場や理念・言説としての平等と実態としての平等の間には乖離があるのではないか、因果関係を問う手法の研究だと運動や政策形成に関われない人々には焦点があたらないまま終わってしまうことを懸念するといった方法論に関する点も指摘されました。

 20世紀の福祉国家が想定してきた均質な社会で一律な個人の平等と社会的安定を追及する動きから、流動化した社会における多様な個人が存在する多様性や異質性を前提とした中での「公正」は何を意味するのか、歴史叙述を通じてどういた貢献ができるのかに関し活発な質疑応答がなされました。